『人新世の資本論』

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 読書ナンバー1114。斎藤幸平『人新世の資本論』(集英社新書)。

 マルクスの読み直しによって現代の現代の課題にどう取り組むかを提起している。
 ちょっとびっくりするようなマルクスの読み方だ。

 著者はいきなり、人類の経済活動を原因とする気象変動によって、地球環境を修復不可能な状態に至った現在、局面を打開するのはマルクスの考え方にあるという。
 マルクス主義とは、ソ連や中国で実験され、すでに破綻した古くさい理論だと考えるのが普通だと思う。

 初期マルクスのセンシティブでラディカルな見解は魅力的だが、著者は、晩期マルクスに注目される。
 晩期マルクスは、生産力の発展が社会発展の原動力だという進歩史観に懐疑的で、共同体に基礎をおくコミュニティ的な社会を構想していたが、思想的にそれは完成されなかったと著者は言われる。

 これは、一般的な史的唯物論の理解とは相反する理解である。
 マルクスをていねいに読んだことなどないので、この見解の当否について判断する資格はないのだが、もしそうであれば、世界が当面するもっとも深刻な危機を解決する方向性をマルクス主義が示していることになる。

 理論レベルで正しくても現実性はないのではないかという向きもあるかもしれない。
 マルクスが夢想したコミュニティ社会は、価値(マルクス主義の教科書でいう交換価値)ではなく、使用価値を価値とする経済関係を基礎とする。
 物々交換は、商品経済登場以前の原始的な経済関係だと思われているが、じつは使用価値同士の交換であり、資本主義経済を乗り越えるもっともエコな経済のあり方なのである。

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2023年12月

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