高木俊朗『全滅・憤死』

 インパール作戦を戦った第三十三師団・戦車第十四連隊の戦記と第十五師団の戦記の合本。

 戦車第十四連隊は、歩兵第六十七連隊・第一大隊(瀬古大隊)、歩兵第百五十四連隊・第二大隊(岩崎大隊)とともに、南からインパールを攻撃する作戦を担当した。
 他の師団・連隊同様、劣悪な装備・兵器、ほぼ補給なしで絶望的な戦いを強いられた。

 のみならず、当初の連隊長(上田中佐)は激戦の中で続々と倒れる将兵を罵倒し脅迫し、感情的で狂気じみた命令を乱発して部下を無駄死にさせた。
 錯乱状態に陥った連隊長は戦闘のさなかに更迭され、後任には騎兵が専門で実戦経験のない人物(井瀬大佐)が着任した。

 これもありえない。
 もっとも上(軍司令官)が非現実的な作戦・命令を感情的に乱発するから、それを受けた師団・連隊の命令も非現実的たらざるを得ない。
 理性的であろうとすれば、日本軍でもっともあってはならない抗命の罪を犯すことになる。
 だから現場は、非現実的な命令を受けて常にパニック状態となり、いたずらに将兵の命を失っていった。

 インパール作戦は、南・東・北の3方向から各1個師団がインパールをめざした。
 第十五師団は、東からジャングル地帯を抜けてインパールに至る作戦を担当した。

 この師団は、最初から劣悪な編成・装備で戦闘に参加させられた。
 かつ、師団長(山内正文中将)は軍司令官から嫌われ、終始、罵倒され続けて、思いつきのような非合理的な命令に振り回され続けた。
 激戦と飢餓と疫病により将兵が激減し、師団の体をなさなくなっても作戦は継続され、師団長は病気のため身動きできなくなって更迭された。

 軍司令官は、戦果がはかばかしくない原因は作戦にあるのではなく、師団幹部の戦意のなさにあると考えていた。
 だから後任の師団長は、「着任挨拶はインパールで行う」などと、妄想を語って、師団幹部を絶望させた。

 700ページを越える大冊だが、最初から最後まで、有り得べからざる事実が記された本だった。

(ISBN978-4-16-791536-0 C0195 \1300E 2020,7 文春文庫 2021,9,14 読了)

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