佐藤進一『南北朝の動乱』

 1960年代後半に刊行された『日本の歴史』シリーズの第9巻。

 南北朝内乱期は、鎌倉時代まで、曲がりなりにも続いてきた列島の社会秩序が崩壊し、混乱を極める中で新たな秩序形勢へ向かった時期である。

 足利尊氏とその周辺、足利直義とその周辺、南朝周辺の三者が、何でもありの離合集散を繰り返す中で、未だ新たな社会秩序は整わず、力あるものが勝利する世界が現出し、武士たちは上から下までが、勝利するための調略に明け暮れた。
 百姓が力を用いて自分たちの存在を主張する時代も、目前だった。

 何でもありの最たるものは、何でもありの天皇だった後醍醐だった。
 武士の勃興期には源氏や平氏などの貴種が求められたが、南北朝から享徳の乱・応仁の乱の時期には、それさえも無意味となった。

 内乱の経過を追うことに大きな意味があるとは思えない。
 このシリーズの他の本にも言えるのだが、1960年代に書かれた歴史書には、人に読ませる筆力がある。
 読者を意識して書かれているからだろう。

(ISBN4-12-204481-2 C1121 \1238E 1974,2 中公文庫 2018,9,26 読了)

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