倉井高志『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』

 ウクライナという国の概要から2022年のロシアによる侵攻までを概説した本。これを読めばウクライナの現在がほぼ理解できる。

 ロシアの支配者は、ウクライナを自分たちの一部と考えているらしい。
 歴史的に見ても、ウクライナがロシアに支配された時代は短くない。
 だからといって、ウクライナ民族など存在しないということにはならない。

 朝鮮民族が長く漢人の支配を受けていたからといって、朝鮮民族が存在しないことにならないのと同様である。

 民族のアイデンティティを尊重すべきという認識は、世界を理解する上で基本だと思うのだが、この認識を自分のものにするのはさほど簡単ではない。
 支配民族にとって、それはあたかも空気のようなもので、あらためて理解する必要性などないからだ。
 被支配民族は日々、それを痛苦とともに体感させられているのだが、支配民族がそのような思いを理解することは難しい。

 日本の場合、他民族による支配を受けたことはないが、幕末以来の対外危機認識が支配者・被支配者に深く刻印されてきたため、ゆがんでしまったと考えられる。

 諸民族が共生できなければ世界は成り立たない。
 民族のアイデンティティという認識は、統治に携わる人々に必須なのである。

 歴史を見ると、被害を受けることによって民族としての自己認識が深まるようだ。
 ウクライナ人の民族的誇りの土台には、他民族による支配の中で培われた部分が大きいのだということがわかる。

 現在の戦争の行方はわからないが、短期的な勝敗にかかわらず、ウクライナ人を屈服させることはできないということだけは、確実だろう。 

(2022,6 Kindle本 2022,9,7 読了)

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