川上徹『戦後左翼たちの誕生と衰亡』

 戦後に左翼運動を闘った人々からの聞き取り。対象者は、1960年代に運動に関わった人々である。

 旧左翼(社会党系・共産党系)と「新左翼」系(トロツキスト系・全共闘系その他)の各セクトのあいだに、思想的に交わる点は少ない。
 同じく反戦・反政府という言辞を弄していても、闘争のエネルギーのかなりの部分が他セクトとの理論的・物理的な闘いに費やされた。

 思想や路線が無限の純化を続け、最終的に敵対者の排除や抹殺に至らねば解決できなくなるのが、20世紀の左翼運動だった。
 『ワイマル共和国』は、常に連立政権であったドイツ社会民主党の苦闘のあとを記録しており、それは感動的である。

 純化路線により反対派を排除・抹殺して権力をイエスマンで固め、恐怖政治を実現したのはスターリンだった。
 彼のやり方が、反対派を含め、20世紀の左翼運動に一般的な芸風になったのは否めない。

 右翼・保守層や社会民主主義系政党の組織原理は、基本的に妥協と共同で、それには組織内の民主主義的な手続き(民主主義のレベルはさておき)が必須だった。
 共産党のやり方は、スターリン以来の純化路線を継承するもので、著者は路線と組織への考え方の相違から『査問』を受け、のちに党を離れられた。

 本書に登場する人々は、すべて戦後民主主義の空気の中で自己形成を遂げ、「反動」に対する憤りをエネルギーとして運動に参加されている。
 社青同や構造改革派・民青系からブント・解放派・中核派に至る話者たちは、本インタビューが行われた第二次安倍政権時代の新自由主義・民衆分断への強い問題意識を持ち続けておられる。
 精魂込め命がけで闘ってきた信条を否定するのは難しいし、その必要はない。

 しかし、1960年代から70年代にかけての左翼運動が、なぜ四分五裂して、全体として衰退していったのかを明らかにすることは、やはり必要だと思う。
 なお、本書に革マル派の活動家は登場しない。
 彼らの脳内は今も、1970年代らしい。

(ISBN978-4-88683-758-5 C0036 \2000E 2014,1 同時代社 2022,3,8 読了)

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