欧陽文彬『穴にかくれて十四年』

 中国人で強制連行被害者の劉連仁の逃亡の記録。

 劉連仁は、1944年9月に自宅前で拉致され、日本へ強制連行された。
 歴史的な記述の本でないのだが、彼を連行したのは汪兆銘政権の兵士だったようだ。
 劉を含む中国人たちは日本兵に引き渡され、船と鉄道により、北海道雨竜郡沼田町の明治鉱業・昭和鉱業所に送られた。
 その間、逃亡を図ったり反抗的な態度をとった人々は暴行され、何人かは殺された。

 強制連行被害者たちは、タコ部屋に監禁され、強制労働に従事させられた。
 被服も食事をまともに与えられず、ノルマが果たされないと暴行を受け、何人かは撲殺され、重い病気になると生きたまま焼き殺された。
 敷地の周囲は電流を通した鉄条網が張り巡らされ、逃亡は困難だったが、1945年7月に、劉はくみ取り式の便槽から脱出を図って成功する。

 その後1958年2月に発見されるまで、彼は日本の敗戦を知らず、山中に掘った穴の中で暮らした。
 食糧は自然物の他に、畑の農作物を怪しまれない程度に盗んだり、出作り小屋にデポされたものを取ったりしたらしい。

 彼が発見された当時は中国との国交は開かれておらず、彼の処遇について、現地の警察・役場はもちろん、日本政府もまともに対応できなかった。
 当初は、「契約に基づいて来日したにもかかわらず逃亡した」(外務省板垣アジア局長)と述べていたが、「劉連仁さんは戦時中日本に入国され、明治鉱業所に入られて以来色々と苦労されたことと存じます」(愛知官房長官)という「慰労」の言葉とともに、10万円を与えて直ちに帰国せよという姿勢だった。

 ここには、強制連行の歴史と責任に触れたくないという姿勢がよく見える。

 本書は毛沢東が神格化されていた時代に書かれた作品で、よけいな修飾語が多くて読みづらい。
 もう少し学問的にまとめられたものを読んでみたい。

(1972,1 三省堂 2022,3,7 読了)

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