贈る言葉

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流れ


 穏やかな流れの中に毛鉤をそっと落とす。
 アイツはもう、毛鉤に気づいているが、食いついたものかどうか、思案している。
 アイツが食いつくかどうか。すべての神経を集中して、おれは流れを凝視する。
 アイツが毛鉤に襲いかかり、「騙された」と気づいて毛鉤を吐き出すまでコンマ2秒。おれの目がそれを見て信号を脳に送り、脳が「合わせろ」と命令を返して手がロッドを立てるまで、早くてもコンマ5秒はかかるから、理論的には間に合わない。だからアイツをものにするためには、極限まで集中力を高める以外には、ない。
 勝負に二度目は、ない。「騙された」と気づいたアイツは、もう出てこない。アイツも命をかけているから、当然だ。だからこちらも、神経を研ぎ澄まし、その瞬間に備えなければならない。
 人類の悠久の歴史からすれば、おれたちの人生など、やはり一瞬にすぎない。一人の人生の中における人との出会いは、さほど多くない。
 今後の君たちの毎日も、二度とない出会いの連続だ。心して、過ごしてほしい。
 そして今となっては一瞬と思える時間を、ありがとう。

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2017年9月

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