豆腐というのは、食感といい、味といい、栄養といい、芸術的とさえ言える食べ物だと思います。
うちでは、近所のおばさんが作って売りに来る豆腐を食べています。
おばさんはたぶん、豆腐屋の看板を出しているわけではないので、この豆腐を買いに行くことはできません。
毎日必ず売りに来てくれるとは限らないので、来てくれればその日はとても運がよいと思わなければなりません。
こちらが留守をしていても、この豆腐は買えないのです。
この豆腐の特徴は、まず、とても固いこと。
落語なんかで、「豆腐の角(かど)に頭をぶつけてくたばりやがれ!」などといいますが、そんなに固くはないものの、歯ごたえがじつにもっちりしているのです。
そして何よりも、この豆腐には、濃厚な大豆の味があります。
豆腐のおいしさは、甘く香ばしい大豆の味だと思います。
スーパーで豆腐を買うようになってから、水で薄めたような味のない豆腐を食べ慣れていましたので、この豆腐には驚きました。
本当の豆腐の味を忘れたまま、命が尽きてしまったら、人生をえらく損したことだろう、とさえ思います。
松下竜一氏の『豆腐屋の四季』には、
同業ひとり過労に死せり零細の豆腐屋われら淘汰されゆく
という歌があります。
山里では、スーパーに買い物に行くのもなかなかたいへんなので、みんながおばさんの豆腐を待っています。
いくら自動車とはいえ、急な坂道を登ってきてもらうのは申し訳ないけれど、居ながらにしてこんなおいしい豆腐が手に入るなんて、山里暮らしも、意外と便利なんだなと思い直しました。
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