色川大吉『カチューシャの青春』

 『廃墟に立つ』の続編。
 1950年から1955年までの著者の「自分史」である。

 この時期の著者は、粕尾村から東京に戻り、まずは民主商工会の事務局員として、相変わらず苦闘に満ちた毎日を送られた。
 彼がどうして、まっすぐに研究室に戻られなかったのかは書かれていないが、共産党員として引き続き地域の中で実践的な活動に従事されようとしていたのかもしれない。

 しかし、この時期の日本共産党は現状認識が主観的で、一部のはね返りによる暴力行使により、すぐにでも革命が可能であるかのような言説がまかり通っていた。
 著者は、そのような言説からは一歩引いて接しつつも、党員として地下活動に入られる。

 武力路線・テロ路線を日本共産党が党全体として採用した事実はないというが、党の一部が組織的に武力的な行動に走ったのは事実である。
 そして松川事件など、共産党による犯行とされたいくつかの事件が、国家権力によるフレームアップだったこともまた、事実である。
 日本共産党にとって、一部指導者が指示した非現実的な方針は、組織のその後に大きな傷を残した。

 著者はその後、演劇活動に奔走する。
 色川氏といえば著名な歴史家だと一般には思われているが、二十代後半の氏はまだ、自分探しの真っ只中にあったということだろう。

 演劇活動にも共産党の路線問題が持ち込まれ、著者はまたもそれに巻き込まれる。
 精魂込めて取り組まれた演劇活動のさなかに著者は、結核を罹患し、肺の切除手術を体験するまですべての活動を休止せざるを得なくなる。

 1954年、著者は、服部之総による『画報近代百年史』の企画に参加される。
 ここからどのようにして『明治精神史』にたどり着かれたのかを知りたいところだが、本書の記述はそこまでである。

(ISBN4-09-626085-1 C0021 \1900E 2005.12 小学館 2021,9,21 読了)