家永三郎『革命思想の先駆者』

 植木枝盛の伝記と思想。再読。
 植木を世に出した著作という。

 著者は、教科書訴訟で有名な方だが、ご研究はきわめて実証的で抑制的という印象があった。
 戦後ほどないころの著書なのだが、きわめて階級的な書きぶりにちょっと驚いた。

 前半は植木の小伝、後半は彼の思想的特徴の分析である。

 これを読むと、彼が民権派きってのイデオローグだったことがわかる。
 板垣退助の読書ノートに「本書を読んでもわからなかったのは、板垣の自由民権思想が、彼のどのような学習なり体験から形作られたのかという点だった」と記したのだが、本書には、「彼は板垣の思想上の師であった」と書かれており、板垣が板垣であったのは植木あってのことだったとも言える。

 短かった生涯において、植木は膨大な著作を残した。
 その中には、有名な憲法草案を始め、時代の枠を突き抜けたような鋭い思想的感覚を見せるものも多い。

 多くの評論・論考をあらわし、各地で政談演説をこなしているにも関わらず、植木が投獄されたのは一度しかなく、それも民権運動家として本格的な活動を始める以前である。
 政府による言論弾圧が猖獗を極め、活動家たちが実力行使に走ろうとするのも当然だったと思われるが、植木は非合法活動とは一線を画して、合法闘争の枠内で活動している。
 飯田事件の檄文は植木が起草したのだが、それが罪に問われることはなかった。

 言論に制限があり、国会も存在しないという中で、抵抗権・革命権の理論通りに行動するのは、事実上不可能だった。
 それでも武装蜂起した自由党員がいたことは、列島の近代史にとって誇りうることではあったが、自由党全体として武力による政府転覆に立ち上がることができる状況ではなかった。
 植木は理論武装した現実主義者だったと思われる。

(1955,12 岩波新書 2021,8,25 読了)