堤隆『黒曜石3万年の旅』

 黒曜石製の石器に関する知見をわかりやすくまとめた書。

 旧石器時代・縄文時代の歴史に対するイメージが『旧石器時代の社会と文化』と比較しても、時代のイメージがたいへん鮮明になってくる好著だと思う。

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 旧石器時代の石器原料として代表的な黒曜石産地は、信州和田峠や麦草峠が有名だが、火山の存在する地域になら産出量や品質はさまざまながら、各地に存在するらしい。

 ちなみに道路が舗装される前の大阪府下に、黒曜石の小破片が転がっていたことを記憶しているが、秩父地方ではこの石を一度も見たことがない。
 大阪府下のものは、道路に撒かれた砕石に混入していたものだろうが、秩父は火山地帯でないので、もしあったとすれば、どこかから意図的に運ばれてきたものの可能性が高い。
 秩父でも合角ダム水没地では、かなり完成度の高い黒曜石製石器が出土しているが、これらは信州のどこかで生産されたものの可能性が高いらしい。

 この本によって、旧石器時代の社会に、黒曜石を始めとする物流ネットワークが存在したこと、石器製作のスペシャリストが存在したらしいこと、東北・北海道には製皮用具の一つとしての掻器が多く使われたらしいことなどが理解できた。

 黒曜石の利用は、旧石器時代の終焉とともに終了するのではなく、鉄器の普及まで継続した。
 鉄が利用されるまで黒曜石は、最も重要な素材資源だったのである。
 この列島が火山列島だったことは、その点で大いに有利だったわけだ。

(ISBN4-14-091015-1 C1320 P920E 2004,10 NHKブックス 2012,11,2 読了)