山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍』

 砲兵少尉としてルソン島で従軍し、捕虜生活を送った著者が、体験に基づいて帝国陸軍について考察している。

 著者が言われる帝国陸軍の実態を見ると、なぜこのように制度や実態が合理的でないのか、という疑問が生じる。
 戦争に勝利することが至上命題になっていない軍隊に、どのような意味があるのか。

 帝国陸軍の非合理性を材料として、著者の「日本論」が展開される。
 帝国陸軍が「日本」を象徴する存在だったかはわからないが、少なくともその一面をあらわしていたことは、事実だろう。

 思うに、システムを維持することを至上命題とする軍事官僚が存在し、作戦も人事も軍事的勝利や天皇のためでなく、彼らのメンツや利害が最優先されたのだろう。

 それが「日本的」なのであれば、現在もその構造は変わっていない。

(ISBN978-4-16-730605-2 C0131 \543E 1987,8 文春文庫 2021,6,22 読了)