藤井一行『レーニン「遺書」物語』

 1922年から1924年にかけてのソ連共産党(ボリシェヴィキ)内部の路線・権力闘争を、グラスノスチにより明らかになった史料に基づいて描いている。

 ソビエト連邦という国家は、社会主義という理論の正当性の試金石だった。
 ソ連の土台となったのは、遅れた資本主義国ロシアであり、未だ粗削りな革命政党だったボリシェヴィキであり、労働者・農民・兵士だった。
 革命への干渉戦争がようやく終結したが、列強による軍事的圧力は相変わらずきびしい中で、ソ連は、国家を建設しなければならなかった。

 ボリシェヴィキの主たる理論的・組織的指導者はレーニンで、スターリン・トロツキーその他のリーダーは、理論面・組織面・人格面でレーニンを凌ぐ実力を見せるには至っていなかった。
 ところがレーニンは1921年以降、病に倒れ、党と国家の第一線から退くことを余儀なくされる。

 その中でスターリンはジノヴィエフ・カーメネフとともに党を牛耳っていく。
 その過程でトロツキーは、スターリンによって排除されていく。

 本書は、スターリンとトロツキー、そして、死の床にあったレーニンの言説をたどることによって、生成期のソ連の政治上の問題点を明らかにしようとしている。
 新しい本でないので、使われている史料がどれほど史料批判を経たものか、自分には判断できないのだが、著者は、レーニンはスターリンよりトロツキーに、より信頼感をおいていたと主張されたいように見える。

 その後、ロシアにおいてさらに研究が進んでいるだろう。
 中国や北朝鮮の人権抑圧の起源も、ここにある。
 スターリンの時代は、ヒトラーのファシズム・毛沢東の文革とともに、20世紀最悪の人間否定・大殺戮時代として、さらに究明されなければならない。

(ISBN4-87652-192-1 C0036 P1648E 1990,10 教育史料出版会 2021,1,12 読了)