佐高信・辻野晃一郎『日本再興のカギを握るソニーのDNA』

 ソニーやグーグルのイノベーションを支えたコアがどのようなものだったのかについて、その両方のチームを指揮した辻野氏に、佐高氏がインタビューしている。
 企業を支えるスピリットについて、含蓄深い。

 企業は株主の利益を目的とする集団だという定義は、間違っていない。
 しかしそれは、教科書的に定義として間違っていないというだけで、企業はそれとは別に、果たすべき役割がある。

 例えば、その企業が社会に対し善なる貢献をするとか、企業幹部や従業員およびその家族の生活を支えるとか、幹部・従業員の人生や生きがいを充実させるなどである。
 国家機構や地方自治体や学校は、利益を目的としない(はずだが)が、同様の役割を持っている。

 利益を目的とするのが企業だから、それ以外に役割などないとするのも一つの考え方かもしれないが、企業幹部も従業員も人間であるから、利益追求にのみ動く企業というものがあるとすれば、きわめて魅力に欠けるものとなる。
 お金がなければ生きていけないが、お金があれば幸福だと必ずしも言えないのと、同様である。

 辻野氏はこの本で、ソニー・グーグルというよく知られたふたつの企業での体験をもとに、魅力的な企業像を語っておられる。
 イノベーションが企業にとって、利益を増大させる最も基本的な手段だということは言うまでもないが、それは同時に、知的・技術的な冒険であり、それ自体が企業人の人生を豊かにするものであるべきだと、氏は考えておられるようだ。

 この本の中で、「大企業病」と指弾されているような企業は、多いだろう。
 そのような企業がしばしば、「勝ち組」と持ち上げられているが、果たしてそれは、手放しで喜ぶべき状態なのかどうか、幹部・従業員も学生も国民も、立ち止まって考えてみるべきだろう。

 社会に飛び立とうとする学生に、ぜひ読んでほしい本である。

(ISBN978-4-06-291523-6 C0295 \840E 2018,4 講談社+a新書 2020,11,10 読了)