金成隆一『ルポ・トランプ王国』

 アメリカ大統領にトランプが当選したとき、どのような人々がどんな理由で彼を支持したのか、聞き取りによって掘り下げている。

 トランプの主張はごく単純で、かつ粗暴である。

 一つは反エスタブリッシュメント。
 民主党や労働組合がターゲットである。

 グローバル化を進めたのは民主党だけではないのだが、民主党が共犯者だということは、事実である。
 エスタブリッシュメントに属する政治家が多国籍企業の操り人形に過ぎないことを、没落しつつある中間層は見抜いている。
 その点、「日本」の中間層より、アメリカ人は考える能力があるらしい。

 もう一つは半グローバリズムで、(不法)移民と経済力をつけたアジア諸国(なかでも中国)が最大のターゲットになる。
 グローバル経済が中間層の生活を破壊していることは理解されているが、トランプ支持層にグローバル経済の黒幕である多国籍企業は見えておらず、目の前の移民や中国企業が自分たちの敵だと考えているらしい。

 パンデミックに際しトランプの無知・無能がさらされたわけだが、いかに無知・無能であっても反エスタブリッシュメント・半グローバリズムを装って仮想敵を攻撃していれば、一定の支持が得られると、トランプの幕僚は考えているようだが、それだけで再選にこぎつけるのは難しかろう。

 さて、「日本」はどうだろうか。
 仮想敵を作り出して攻撃を煽り、空虚な自党への支持を呼びかける手法は、ある程度成功しているかに見える。

 ポピュリストの時代なのだろうか。

(ISBN978-4-00-431644-2 C0231 \860E 2017,2 岩波新書 2020,7,22 読了)