取材班『日本人はなぜ戦争へと向かったのか 外交・陸軍編』

 日中戦争期の外交・陸軍統治の諸問題を洗った本。
 歴史の流れの根幹部分ではなく、通史から抜け落ちそうだが重要な諸問題について掘り下げている。

 読んでいて、教えられることはそれなりにあるのだが、自分は歴史の基本的な流れ自体をもっと掘り下げて理解したいと感じる。

 外交面でいえば、松岡洋右が国際連盟脱退に反対だったが外務省により脱退を強いられたというのは、意外なことながら事実なんだろう。
 しかし、松岡の考えと本省の考えの相違は、「日本」が満州を謀略と武力によって不法に占拠した事実を既定化する上でどの戦術がより有効と考えるかの相違だったのであり、松岡が国際協調主義者だったというわけでは、まったくない。

 帝国陸軍と海軍が一枚岩でなく、平時・戦時いずれにおいても対立関係にあったことは知られているが、陸軍そのものも、よく言われる皇道派と統制派の対立だけでなく、軍政部と軍令部の緊張関係や、参謀本部と関東軍との緊張関係など、戦争に致命的な影響をもたらしかねない内部問題を抱えていた。

 本書は、それら微妙な諸関係を解きほぐそうと試みている。
 しかし本質的な問題は、統帥権の独立という制度上の欠陥と、天皇を始めとする軍指導体制における、権限・責任の不明確さだったのではないかと感じる。

 この時期の歴史の研究が、個別分散的に深化しつつあるのかもしれないが、「日本人」が学ぶべき歴史の基本的な流れは、そこではないと思う。

(ISBN978-4-10-128374-6 C0195 \550E 2015,7 新潮社 2020,6,17 読了)