鴻上尚史『不死身の特攻兵』

 陸軍最初の特攻隊である万朶隊の隊員で、数度の出撃にも関わらず生還した佐々木友次伍長からの聞き書き。

 陸・海軍で実施された特攻隊は、レイテにおける最初の攻撃である程度の戦果を上げた。
 しかしアメリカ軍はまもなく、レーダー網の整備などによって特攻作戦に対応し、その後は、空母や軍艦など、主要な敵艦突入はほとんど不可能になった。
 にもかかわらず他に戦術を持たない陸海軍は、特攻作戦に依存し続け、マスコミは大本営の発表する「赫々たる大戦果」を大粉飾して報道した。

 特攻作戦による敵への打撃は軽微な一方、作戦は、敵艦への突入以上に、帰還しないことが目的とされる、絶望的な生命消耗戦に陥っていった。
 佐々木氏は、自爆することより敵艦に被害を与えることの方が作戦全体にとって有効だという考えを、隊長だった岩本益臣大尉から聞かされ、整備兵も、爆弾を切り離すことができる改造を行った。

 佐々木氏も語られているように、死ぬこと自体を否定しているのではなく、彼らは無駄死にを否定し、意味ある死を求めていたのである。
 しかし日本軍にとって特攻は、搭乗者が死ぬことを目的としていた。
 佐々木氏の上官は、敵艦に被害を与えよと命ずるのでなく、死ねと命じた。

 すでに軍にとっては、なんのための戦争か、わからなくなっていたのである。

 それでも、特攻隊を美化する歴史の偽造が始まっている。
 特攻隊を美化することは、無駄死にを美化することである。
 彼らが「国のために亡くなった」という言い方をするとき、気の重いことではあるが、その死にどのような意味があったのかを問い返さなければならない。

 なによりも、問題をあからさまにして、理性的に意見が言える状態をまずは、作らねばならない。
 戦後75年が経ったというのに、この「国」はまだ、そんな状態なのである。

(ISBN978-4-06-288451-8 C0236 \880E 2017,11 講談社現代新書 2020,6,3 読了)