米田一彦『熊が人を襲うとき』

 ツキノワグマによる事故の原因と対策についての最新研究。
 しかし、著者の結論は「私には分らない」である。

 類書ではかつて、熊に襲われたらあらゆる手段を使って抵抗を試みるのがよいとされていた。
 「手段」の一つとして例示されていたのがナタだったから、ナガサのような刃物を携行する人もいるようだ。
 しかし、豊富な事故事例を分析された著者は、抵抗することによってより致命傷を負う可能性があると指摘している。

 一方、「死んだふり」は無意味というのが従来の通説だったと思うが、「死んだふり」によって命拾いしたとみられる事例が複数紹介されている。

 本書で述べられているのは、多数の事例からどのような傾向が見えるかであり、結論ではない。
 登山者がクマと遭遇するのは、さほど珍しいことではなく、事故はお互いに避けたいものである。

 はっきり言えるのは、まずは従来から言われていたように、遭遇を避けることが最も大切だということである。
 自分の経験からいっても、鈴の携行は確実に効果がある。
 本書は、「安価でも「チーン」と心に滲みるような音の鈴ならよい」と不思議な事を述べている。

 襲われたときに使える武器として、クマ撃退スプレーは最も推奨されている。
 これも従来から言われていることである。
 スプレーなら、ナガサなどよりはるかに軽量で、持ち運びに便利である。
 自分も今後、携行するようにしたい。

 最後にクマとの対峙の仕方について。
 あまり太くない数本の樹木を隔てて動きを止めれば、クマに直撃されない可能性があると著者は述べている。
 その条件を満たす立ち木が遭遇地点にあるかどうかはわからないが、これは覚えたおいたほうがよさそうだ。

(ISBN978-4-86447-089-8 C2075 \1800E 2017,5 つり人社 2017,12,8 読了)