日清戦争・日露戦争の諸問題に関する、戦史家の座談会。
戦史家の議論だから、戦争の世界史的意味については論じられていない。
内容的には、日露戦争に関しては、『日露戦争史』(1-3)の方が圧倒的に詳しく、本書は、両戦争における戦史上のいくつかの問題について語られている。
補給の軽視によって、食糧・物資の略奪が日本軍の補給の基本となった。
このような形は、日清戦争から見られた。
旅順虐殺について弁護する意見もあるが、事実を否定するのは難しく、これまたのちの戦争でも再現された。
日露戦争における旅順攻防戦で莫大な犠牲を出した乃木希典をめぐっては、愚将であるとも勇将であるとも結論めいたことは言われていないが、ひたすら天皇に忠実な将軍だったことは、出席者の見解が一致している。
だからといって、空前の犠牲者を出した彼の作戦が正当化できるわけでもない。
明治天皇が彼の戦いを支え続けたわけだが、天皇が死去したことで、彼を精神的に支える存在がなくなったのは、理解できる。
日露戦争後、131人の将官・将校に爵位が与えられたという。
多くの人の生き方を規定する大きな動機が「名誉」であることは、否定できない。
戦争は、特に上級軍人にとって、名誉欲を充足する絶好のチャンスとなった事実も、きっちり覚えておきたい。