秦郁彦ほか『零戦と戦艦大和』

 太平洋戦争の帝国海軍が使用した兵器のうち、特筆すべき技術力の結晶である、零戦と戦艦大和に関する座談会。

 出席者は、戦史家が多い。
 「このように戦えば勝てた可能性もあったのに・・・」的な文脈も散見されるが、あまり気にせず読めば、面白い指摘も多い。

 零戦は、開戦当初の段階では、航続距離と格闘性能においてアメリカ軍を圧倒する戦闘機だった。
 その性能を担保していた技術は、スペックを落とさずに徹底的な軽量化を図った点にあるようだ。
 モノコック構造の機体とか、超々ジュラルミンとか、引き込み式車輪脚などは、制作現場の職人技的技術が組み合わされて、軽量・高スペックが実現されたという点は、「日本」らしい技術力だと思う。

 大和は、当時の「日本」の最先端技術がすべて搭載されていると言えるほど、完璧な機械だった。
 この「不沈戦艦」は、鋼板接合技術や、巨大測距儀・アナログ射撃管制装置等のセミハード技術を惜しげもなくつぎ込んで建造されている。

 これら兵器に使われた技術そのものは、当時の「日本」にとって誇るべきものであるが、戦争がこれらの技術開発を促したという言い方は、当たらない。
 戦争がなくても、市場経済は、あらゆる技術開発を衝動するはずである。

 戦争末期には、零戦も大和も、特攻という絶望的作戦に使われて、終末を迎えた事実を直視すべきである。

(ISBN978-4-16-660648-1 C0221 \710E 2009,7 文春新書 2017,4,1 読了)