堤未果『沈みゆく大国アメリカ』

 2014年から始まったアメリカの皆保険制度=オバマケアの実態ルポ。

 オバマが国民皆保険の制度を実現したのは事実だが、それは「日本」のそれとは全く異なったものだった。
 もっとも大きな相違点は、アメリカの皆保険は基本的に保険会社の保険商品だというところである。

 保険会社にとって被保険者への給付金支払いはリスクである。
 給付に該当する事態が生じたときに保険会社が給付金を支払うのは当然だが、給付額は少ないほど、保険会社の利益は大きくなる。
 さらにその方が、会社の役員や株主の取り分も多くなる。

 だから、アメリカの保険会社は、会社の利益を多くするように保険を設計する。
 一例として、以下のような事例が紹介されている。

 HIV感染者を保険会社は加入拒否できないのだが、その代わり高価な薬、例えば一錠1000ドルのHIV治療薬には保険を適用させない。
 その結果、感染者は約3ヶ月で84000ドル(ほとんど1000万円近い金額である)の薬を自力で購入しなければならない。
 もちろん、それは不可能だから、感染者は治療を諦めるしかない。

 一方、患者を救おうとすれば、病院・医師がしわ寄せを引き受けるしかない。
 かくて良心的な医師・病院は心を病み、あるいは経営破綻に追い込まれるしかなく、患者たちはコンビニドラッグなどの低質な売薬産業に依存する。

 保険会社と製薬会社が利益を増やす方向で制度設計されているのだから、こうなってしまうのは当然である。
 そして制度設計は業界のロビー活動によって決まるのだから、すべては業界の利益のためというのが基本である。

 資本主義とは、これほどまでに醜悪なものだったのだうか。
 重要なことに、これは対岸の火事ではない。
 TPPなどによって、まもなくこの「日本」でも同じことが起きるのである。

(ISBN978-4-08-720763-7 C0231 P720E 2014,11 集英社新書 2016,3,14 読了)