小川忠『インドネシア』

 外務省所管の特殊法人に所属してインドネシアと「日本」の交流事業を手がけている著者による、インドネシアルポ。

 サブタイトルに「多民族国家の模索」とあるように、インドネシアは多民族国家である。

 現代世界において、民族問題は、最大の難問の一つである。

 東西の問題、あるいは南北の問題というようなアバウトな形では、今の国家にアプローチすることはできない。
 対立の根には多く、民族や宗教があるからだ。

 インドネシアには、300から400の言語があり、イスラム・ヒンドゥ・キリスト・仏教を信じる人々が混在するという。
 まずは、この国の人々は、どのようなアイデンティティを持ちうるのだろうかと思ってしまうが、独裁政権を含めて、インドネシアのリーダーたちは、それをクリアする知恵を持っていた。

 経済成長をとげる中で、格差・貧困の問題、外国資本進出をめぐる問題などが持ち上がる。
 支配層はおそらく、権力を背景に蓄財に走っているだろう。

 この問題は、国家のあり方の根幹に関わるから、激しい闘争なしには解決され得ない。
 共存が実現している宗教や言語の問題が、経済問題をきっかけに再燃するかもしれない。

 本書に引用されている新聞『スアラ・プンバルアン』紙の社説にある、「多数、少数という区分の仕方をしないこと。ジャワ人は多数なのではなく最大の少数と理解すべきである」という言葉は、この国の知恵の奥深さを感じさせる。
 このような考えが、この国を支えているのである。

(ISBN4-00-430296-X C0225 \580E 1993,8 岩波新書 2014,8,20 読了)