石橋克彦『大地動乱の時代』

 地質学の教えるところによれば、この列島を生み出したのは、地殻を覆うプレートによる造山活動である。

 従って、造山活動がなければ列島自体が存在せず、この列島は造山活動とともにあるというべきである。

 人の一生の中で地震に遭遇する機会は数多いが、壊滅的な大地震となると、そう多く体験されるわけではない。

 歴史に残る大地震クラスとなると、百年に一度あるかないかであるから、それを体験しないで一生を終えることもありうる。

 壊滅的な被害は、人々によって語り継がれる。
 語り継ぎが正常に機能する社会であれば、手痛い経験がすっかり忘れられるということは、あまりないだろう。

 ところが今は、忘却の時代でもある。
 「未来志向」などというコトバのごまかしによって、権力者にとって忘れたいことは早く忘れさせる心理操作が行われ、それはある程度成功している。

 この本は、1994年に書かれた。
 大都市における震災の危険性についての指摘は、翌年の阪神・淡路大震災の際に現実のものとなった。

 この本は、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界付近の分析が中心であるため、太平洋プレートと北アメリカプレートの境界付近の分析はほとんど書かれていない。
 2011年の東日本大震災をもたらした地震も、以前から語り継がれ、かつ科学的に予測されて来た地震だった。

 著者は、今後、「大地動乱の時代」が訪れると述べているが、この列島は常時、大地動乱状態なのである。

 列島における地震の原因は、プレートの移動に伴う岩盤破壊だけではない。
 兵庫県南部地震や中越地震や長野県栄村で起きた地震などは、活断層の破壊に伴う地震だった。
 活断層は列島の至るところに存在するから、そのタイプの地震は、いつ、どこで起きてもおかしくない。

 地震列島で暮らす上で必要な英知は、第一に、ともかく命を長らえることをすべてに優先させるということであり、第二に、破滅的な地震が来ることを前提に生活全般を組み立てることだろう。

 都会に人口を集中させ、高架式道路を張りめぐらせ、地下にも鉄道や街路を構築し、軟弱な砂質地盤の上に高層建築を林立させるなど、利口の反対の暮らし方であるのだが、それがわからないのだから、つける薬はない。

(ISBN4-00-430350-8 C0244 P620E 1994,8 岩波新書 2014,5,9 読了)