古守豊甫『長生きの研究』

 内容的には『短命化が始まった』と重なる部分が多い。

 こちらは、医師による棡原村レポートである。

 『短命化が始まった』は1986年の刊行だが、こちらは1977年に出されている。
 棡原村が長寿村として世に紹介されたのは、本書の著者らによってだった。
 『短命化』のフィールドワークが始まったのも、おそらく、本書の著者らの啓蒙の影響があったからだろう。

 「健康本」「長生き本」のほとんどは、読む価値がなさそうだが、本書は、それらとは水準が全く異なる。

 「長生き」という語を語るとき、多くの人は、現在の知力・体力のままで、より多くの時間を享受できるかのように、誤解している。
 しかし、それは幻想であって、高齢者の現実ははるかに、惨めである。

 ここ秩父の山間部でも、近所のご老人の多くは、長命である。
 そして、長く病みつくことなく、つい先日まで畑で元気にしていたかと思うと、あっという間に逝かれる人が多い。
 彼らの来し方は、本書に出てくる棡原の老人たちと、かなりの部分で相似形である。

 本書の主張すなわち、雑穀や芋類を中心とした列島在来の食生活・重労働・日常生活における斜面の登降などが健康と長寿への道なのだという問題は、おそらく、疑いようもない真実である。

 本書のところどころに出てくる食べ物の多くは、棡原でも、もう作られていないだろう。
 著者は、1970年代に、上の主張を声を大にして叫ばれたのだが、列島の民は、その方向とは真逆の道を進み、ついには、食べ物などどこかから買えばよい、というところにまで至った。

 今や列島の民は、その場その場の刹那をどう乗り切るかに汲々としている。
 支配者は、少しのカネと地位と引き替えに、民から絞り上げた膏血を、国籍を持たぬ資本に売る。
 その現実が見えている人は少ない。

(1977,5 風濤社 2013,12,26 読了)