高木仁三郎『市民科学者として生きる』

 高木仁三郎氏の自伝。

 原子力関連会社の社員・研究者・大学助教授と、専門家として生きてきた氏が、在野の研究者・運動家としての後半生を選択された過程を振り返っておられる。

 原子力という、高度に専門的な分野にあって、専門家として、マトモなことを言い続けるのは、ずいぶん困難なことらしい。
 そのような専門家がほとんどいないことや、小出裕章氏の言葉からもそれがわかる。
 だから、そのような人々は、一般市民としては、とてもありがたい存在である。

 大学教員のポストは、自由に資料にアクセスしたり、高価な実験機材を公費で購入したりすることができるはずだ。
 研究活動にとって重要なそれらの条件を捨てることは、研究者としては決定的に不利な立場に甘んじることを意味する。

 失うものを放棄すれば、権威・権力に売るものを持たないことになる。

 高木氏は、三里塚や浪江町の住民から、科学にとっての曇らざる目を教えられたと言われる。
 地に(あるいは海に)足をつけて暮らしている人々の目線でモノを考えなければ、まともな立論はできないのだろう。

 真理は、とてもわかりやすく、単純なのである。

(ISBN4-00-430631-0 C0240 \700E 1999,9 岩波新書 2013,3,21 読了)