さとうち藍『ふるさと野菜礼賛 』

 各地のいわゆる「伝統野菜」の周辺を取材したルポ。

 栽培農家や野菜そのものだけでなく、例えば豆腐屋のような加工業者や種苗店・地域の食材にこだわったレストランのように、伝統野菜が存続するうえで欠かせない人々からも取材している。

 とりあげられているのは30種類ほどだから、各地に存在する品種のごく一部に過ぎない。

 しかし、たとえ栽培者が全部で数人に過ぎない品種であっても、地域の作物には必ずドラマがある。

 戦前以来、政府もおそらく、これら地域作物の調査を何度も行っているはずだが、国の発想としては、「優秀」な作物を探し出してそれを普及すればよいというものだっただろう。
 適地適作という考え方がなかったとは思わないが、近代国家が経済「合理」主義を無視することがあり得ない以上、農作物におけるすべてのローカリティを尊重することなど、あり得ない。

 韓国唐辛子の種子を買ってきて日本で栽培しても、韓国で食べることができるようなまろやかな旨みのある唐辛子にならないという経験則がある。

 作物の栽培において、種子の持つ遺伝子情報も大事だが、土壌の質や気温・日照・風の種類もその出来に影響を与える。
 遺伝子情報はそれが根を下ろした場所に応じて、フレキシブルに変化する。
 そこに栽培者の栽培意図が介入し、いずれ、その土地の条件に対応した優れた点を持つ品種が形成される。

 食べ物が安全かどうかは、栽培者を知り、圃場を知らなければ、絶対にわからない。
 無農薬野菜だと称して売られているものが本当に無農薬かどうかなど、証明できないからだ。

 安心できる食べ物を手に入れたければ、生産地に出かけなければならないというごく当然のことを、理解しなければならない。
 それは、スーパーで袋詰めされた野菜を買うのは、リスキーなことだと理解するということと、同義である。

 だが、列島における食べ物作りは、今後さらにやせ細っていく可能性が大きいと思われる。

(ISBN978-4-259-54702-8 C0061 \1800E 2007,2 家の光協会 2012,8,25読了)