増田昭子『雑穀を旅する』

 列島において一般的な雑穀は、キビ・アワ・ヒエの三種類だろう。

 これら以外にソバ・タカキビなども古くから作られているが、ソバはあまりにもメジャーだし、タカキビは、どこでも栽培されていたわけではなさそうだ。

 三種類の中で、キビは後発の穀物なのか、『古事記』や『日本書紀』の「五穀」に入っていない。

 列島の民がコメを主食としていたというのは、おそらく誤解で、少なくとも江戸時代までは、都市民と支配階級以外の主食は麦類及び雑穀だったと思われる。

 主食なのだから、最も重要な作物であることは間違いないが、今これらは、健康食材とかグルメ食材として扱われている。
 都市民の増加とともに、美味なコメを食べる生活がしだいに一般化し、麦や雑穀は不味くて貧乏臭い食べ物という価値観も広がった。

 雑穀の栽培自体は難しくないが、収穫した後の調整はたいへん困難である。
 雑穀の脱穀・脱桴(稲で言う籾摺り)は、稲用の機械を使うわけにはいかず、専用の機械があるわけではない。
 この点について、実践的には試行錯誤が必要かと思っている。

 ところで本書は、現代における雑穀の食・発酵食作り・種子について、歴史・民俗などの切り口から総合的に扱っており、わかりやすい。
 列島の食の原像とは、このようなものだったという思いが強い。

 雑穀について知らずして、列島の歴史や暮らしや文化は理解できないと思う。
 自分としては、ちょっと実践的にやってみようと思っている。

(ISBN978-4-642-05633-5 C0320 \1700E 2007,6 吉川弘文館 2012,3,12 読了)