松尾剛次『中世都市鎌倉を歩く』

 主として鎌倉時代から戦国時代までの鎌倉の歴史。

 この本を読むと、鎌倉に行ってみたくなる。



 鎌倉は、中世を通じて存在した東国国家の首都である。

 江戸時代に再開発が行われていないから、中世の景観が良好に保存されているという。

 地政学的な鎌倉の利点は、周囲を海と小山に囲まれており、侵略者から防衛しやすいという点以外に、鎌倉時代初期に良港が築造され、畿内や東北方面のみならず、東アジアとダイレクトに交流しうる点もあげられる。

 鎌倉を支配した源氏・北条氏・足利氏・上杉氏とその一族はそれぞれ、政庁とともに、大寺院を造営した。
 これらの大寺院は、規模を縮小したものを含めて、かなりの部分が残されている。

 また、東国国家の武力基盤はもちろん、関東から甲信越一帯の山村にあった。
 民衆と武士団との関係が、いま一つ鮮明にわからないのは残念だが、上武一帯には鎌倉街道そのものや、「鎌倉街道」と口承された道が残っている。
 関東山村の民衆にとって、鎌倉はまさに首都として記憶されていたのだろう。

 鎌倉はまた、日蓮や一遍が活躍した民衆宗教の町であり、大寺院や将軍(のちに執権・公方・関東管領)御所を中心とする一大消費地すなわち商業都市であり、僧侶を含む異国人が渡来した国際都市だった。

 東国国家を理解する上で、鎌倉が絶好の教材になる以上、何度か訪れて見なければなるまい。

(ISBN4-12-101392-1 C1221 \660E 2006,5 中公新書 2011,8,8 読了)