宮尾嶽雄編著『ツキノワグマ』(信濃毎日新聞社) 東根千万億『SOS ツキノワグマ』(岩手日報社)

 ツキノワグマに関するローカルな本を2冊読みました。
 『ツキノワグマ−追われる森の住人』は長野県、『SOS ツキノワグマ』は岩手県のクマについて、記しています。

 『ツキノワグマ−追われる森の住人』の方は、学者が書かれた本です。
 この本の前半は、分類学的にみたニホンツキノワグマの位置づけですので、勉強になりはしましたが、退屈でした。

 後半はクマの生態についての記述ですが、比較的新しい、米田一彦『山でクマに会う方法』などの方がずっとくわしく書かれています。
 クマの生態についていうなら、クマはぎやツメ跡、食痕、糞など、彼らの生活痕の写真を、もっとたくさん見たいものだと思いました。

 『SOS ツキノワグマ』は、新聞連載記事をまとめたものだと思いますが、クマと自然、クマと社会、さらにはクマと文化を、きちんと掘り下げようというメッセージにあふれていると感じました。

 新聞記事独特の文体にはやや閉口しますが、岩手山周辺や姫神山、五葉山、六角牛山など、私にとっては、それぞれ思い出深く、立派な山々に棲むクマたちと人間のおかれている危機的な状況が、わかりやすく記されています。

 岩手でも、クマたちは棲む場所を侵されては、人と摩擦を起こし、殺されています。
 驚くほど重厚な、自然度の高い森を持つ岩手県ですが、時おり訪れるにすぎない私などにさえ、ひどく「開発」されていることがわかります。

 日本人は今だに、自然の力に甘え、自然にもたれかかって生きています。
 日本列島が砂漠や荒れ地にならなかったのは、われわれの祖先がどのようにして生活してきたからなのか、知ろうともしていないようです。

 クマが生きられなくなる頃には、人だって、安心して生きることができなくなっているだろうに、と思うのですが。

(ISBN4-7840-8912-8 C0040 P1700E 1989,7 信濃毎日新聞社刊 1998,8読了)
(ISBN4-87201-221-6 C0040 P1300E 1994,9 岩手日報社刊 1998,8読了)