岩瀬 徹『野草・雑草ウォッチング』

 毎日のように、野良仕事をしていますが、野菜作りの仕事の95%以上は、草むしりであるといっていいと思います。


 わたしなどは機械を持っていないので、植えつけ前の耕起あたりがたいへんなように見えますが、実際にはそれほどのことではありません。
 やはり雑草との戦いがもっともつらく、忍耐を要する仕事だと思います。

 オオイヌノフグリ・タチイヌノフグリやホトケノザは、晩秋からぐんぐん伸びてきます。
 春になると、カキドオシやアカザ、スズメノカタビラなどが、それに加わります。
 ハルジオンやハルノノゲシなども、うっかりすると、出てきます。

 梅雨にはいると、イヌビユ、エノコログサ、スベリヒユ、コニシキソウなどが生え出すと、戦いは佳境を迎えます。
 このころには、毎日むしっても、生える方がずっと早いので、だんだん追いつめられるような気がします。

 二、三日、畑に行かないと、全体がうっすらと草原化しているのがわかります。
 こうなると、へなへなと気力が萎えていくのを感じますが、ここで負けては、おしまいです。
 したたる汗をかまいもせず、まとわりつくヤブ蚊を追いながら、一本一本むしっていきます。
 秋が深まれば、らくになれる。そう思いながら、暮らしています。

 こんな毎日を送っていますから、著者のように、雑草に愛着を持つ気には、とうていなれないのですが、この本によって、雑草の世界をかいま見ることができて、野の草に多少の関心を持つことはできました。

 共感したのは、環境アセスメントにおける、「普通種あっての貴重種」という項目と「『野草を食べる』ことについて」という項目です。

 わたしは、希少生物のことを「貴重種」と呼ぶ発想に、以前から違和感を持っています。
 秩父の長尾根ゴルフクラブのアセスメント文書に目を通したとき、それを強く感じました。
 希少なものだけを取り出して移植することが、種の保全であるかのような書き方は、偽善以外の何ものでもないと思いました。
 希少な生き物が生息できることが貴重なのであって、希少生物を保護するとは、その生息環境を保護することでなければならないはずです。

 それから自然の草や木の実などを食べることについて。
 ある雑誌に、きのこや山菜についてのアンソロジーを連載したことがあります。
 きのこや山菜の見分け方や食べ方を紹介するのが、編集者の中心的な意図だったようですが、わたしは、それらのきのこや山菜と出会えることの喜びや、つきあい方を中心に書かせていただきました。

 ただ採るだけというのでは、自然からの略奪と同じです。
 日本人は、もう少し紳士的な、自然とのつきあい方を、身につけなくてはいけないのではないかと思っています。

 やっかいな畑の雑草で、まだ名前すら知らないのも、いくつかあります。
 まずは、名前くらい覚えてから、草むしりをすることにいたしましょう。

(ISBN4-06-268328-8 C0045 \1700E 1999,3 講談社刊 2001,7,5 読了)