西澤信雄『朝日連峰・鳥獣戯談』

 この本は、朝日連峰に生息する鳥やけものについて書かれた本ですが、鳥やけものの観察記録とか、分類学的特徴とかについて書いてあるのではありません。


 ここに書かれているのは、朝日連峰に棲む鳥やけものと、そこで暮らす人間が、どのように関わってきたか、ということです。
 もっとはっきり言うなら、朝日連峰の麓で暮らす人々が、鳥やけものをいかに捕らえ、いかに食べてきたかが中心だと思います。

 山歩きなどを趣味とする人々は、ハンティングが好きではないのではないでしょうか。
 私も、じつはそうなのです。

 例年、今の時期(2/7)には、びくびくしながらヤブ山をうろついています。
 ハンターらしきものの存在を察知すると、黙ったまま、急いで逃げたりすることもあります。
 これではよけい危ないですね。

 しかし、山棲みの人々はみな、動物や鳥を食べたり、皮を利用したり、売って生活の足しにしたりして暮らしてきたのです。
 それはレジャーでなく、生活の一部だったのです。

 山奥では、そうでもしなくては生きてゆけなかったのだ、という言い方もできるでしょう。

 そのような暮らしができるほどに、山の幸とは、すばらしいものだったのだ、という言い方も可能だと思います。

 西澤さんは、「山の自然や動物、山の幸のことを、生活の中で話す人もいなくなってしまいそうです」と書かれています。

 その通りだと思います。

 山が生活の場ではなく、遊びの場となってしまったことは、悲しいけれど、認めざるを得ますまい。
 ハンティングも、釣りも、山歩きも、きのこ狩りも、一つの遊び文化として、成熟して行かねばなりません。

 そのためにも、かつて山で暮らした人々から、生き物とどう関わってきたかという話を、よくよく聞いておきたいと思うのです。

(ISBN4-89544-191-1 C0095 \1600E 1998,7 無明舎刊 1999,2,7読了)