田中宇『アメリカ以後』

 国際情勢解説者の著者が、21世紀の世界の動向をどう見通しているかが書かれています。

 アメリカの世界戦略が、大きく消費するというライフスタイルや、強力で権威あるアメリカの維持という点が基本であるということは、まちがいないと思われます。
 それは、文明論的に大きな問題をはらんではいますが、国際政治学的には妥当な路線でしょう。

 しかし、2001年に就任したブッシュ政権の対外・国内政策は、独善きわまりないものであり、アメリカこそがナラズ者国家・テロ国家の最たるものであると断言しうる政策を次々に実行しています。
 こうしたブッシュ政権のやり方が、いかなる歴史的な意味を持つものなのか、またアメリカと世界は今後どうなっていくのか。

 ブッシュ政権は、巨額の財政赤字を抱えているにも関わらず、アフガンやイラクに膨大な戦費をつぎ込む一方で、高額所得者への減税をすすめようとしています。
 また、国防総省には120兆円にのぼる使途不明金があるにもかかわらず、国による解明の動きすらありません。
 いったいどうなっているのか。

 アメリカの始めた戦争は、アフガンでもイラクでも、泥沼に陥っていますが、国際的な枠組みの中でこれを解決していこうという動きはまだ、見えてきません。
 これらの戦争を通して、ブッシュやパウエルら政権トップが、国内向けにも対外的にも虚偽情報を流して世界と国民を欺いていたことが次第に明らかになり、イスラム諸国からの反感が強まるとともに、同盟国からの政権への信頼も地に落ちた感があります。
 アメリカは、こんなことでいいと思っているのか。

 著者は、アメリカが衰退の方向に向かっていると指摘しています。
 もちろん、近々ドラスチックな変動が起きるということではなく、数十年ほどの大きなスパンで見た話です。

 そういう中で、ヨーロッパもアジアも、独自の政治的・経済的枠組みを作ろうとする試行錯誤を始めています。
 著者は今後、アメリカの衰退とともに、そのような地域的動きがさらに活発化すると見ておられるようです。

 それでは、日本はどうすべきなのか。
 それは、日本人自身が考えなければならないテーマでしょう。

(ISBN4-334-03234-6 C0295 P700E 2004,2 光文社新書 2004,3,22 読了)