ウワミズザクラ酒

 ウワミズザクラは、雪国の花という印象が強い。

 春から初夏にかけての雪国の渓は、どうどうたる雪シロにあふれ返っている。
 実際、釣りどころではなくて、渡渉のままならないことが多い。
 だから、たいがい、釣れない。(^^;

 しかし、時には雪シロに会いたいと思うことがある。
 岸辺をいろどるキクザキイチゲやリュウキンカ。
 コシアブラやウドもあるかもしれない。

 ふと上を見ると、ブラシ状の白い花が咲いている。
 これがウワミズザクラ。
 アンニンゴと呼ばれるつぼみの塩漬けが、食堂の一品に並ぶこともある。

 きのこを探しに行った玉原で、赤いウワミズザクラが実っているのに出会った。
 手の届くところにはあまりないから、ほとんどはクマタロウのものだが、少しお裾分けしていただいた。

 漬けた当初は深紅の美しい酒だが、味が若い。
 じっくり熟成させると、色があせて琥珀色となる。
 どこで飲むかは、好みによる。

 ミネザクラ同様に、クマリンのにおいが強いが、ウワミズザクラの方がもっと味が複雑で、奥行きがある。
 いかにもサクラらしい香りも感じられる。

 じつは、秩父地方の山でも、よく見られる花なのだ。
 しかし、ウワミズザクラ酒を飲むと、ドウドウたる雪シロと、冷たい雪どけ水に磨かれたイワナを思い出す。