各種キイチゴは、初夏から初秋にかけて、渓沿いや林縁を彩っている。 魚に遊ばれた日など、イチゴに慰めてもらうことも多い。
初夏のモミジイチゴに始まって、盛夏のクマイチゴ、晩夏にはクロイチゴやパライチゴ、初秋にはエビガライチゴが、実っている。 これは、悪名高き奥鬼怒林道で摘んだ、クロイチゴ。 このイチゴも、山奥の林道ののり面に繁茂するから、自然の荒廃のシグナルでは、ある。 しかし、クロイチゴに、罪はない。
まる二日間、ほとんど人に会わない、静かな山行を振り返りながら、少し褪色の進んだ、リキュールをなめる。
実が小さいので、はずすのがたいへん面倒だったのだが、キイチゴの酒としては、たいへんよい出来だ。 すっきりした酸味と、ほのかな苦味。 なによりも、美しく澄んだ赤褐色が、すばらしい。
ことしも、奥秩父の渓沿いの林道で、クロイチゴを摘んだ。 来年も、グラス一杯の口福にあずかれるかと思うと、幸多き山への、感謝の思いでいっぱいになる。