マタタビ酒

マタタビ酒

 マタタビ酒の味はなんと形容すればいいのだろう。こればかりは、ことばで表現するのはむずかしい。
 果実酒の中では、珍味の部類にはいると私は思う。

 私がマタタビ酒をさしあげると、たいがいの人は、ひと口飲んで顔をしかめ、「なんだこりゃ?」とおっしゃる。かなり妙ちきりんな味なのである。
 ここから、もういらないという人と、もう一杯飲んでみようという人に分かれる。もう一杯という人は、すでに、マタタビ酒の味にはまりつつあるとみてよい。
 そういう人は、なんか不思議な味だねえといいつつ、ついついさかずきを重ねてしまう。

 マタタビ酒は薬用酒とされているが、なんだか、効きそうな味だ。虫が寄生して奇形になった実の方が薬理効果は高いというが、虫こぶになった実はまだためしてみたことはない。強壮強精・疲労や病後の回復・更年期障害・高血圧その他に効くと、本には書いてあるが、どうなのだろう。

 マタタビは、沢沿いなら奥山といわず、里山といわず、どこにでも生えている。しかし、親戚すじにあたるキウイフルーツ同様、雄株と雌株があるらしく、実のつかない株も多い。これはサルナシも同じで、実のなる株は圧倒的に少ないようだ。

 マタタビの季節は禁漁期前後だ。渓流沿いの登山道や、アプローチの沢すじで、立木にからんだツルがあったらよく見てみよう。マタタビは夏になると一部の葉が白やピンクになるのでなかなかめだつ。葉の色が変わらないサルナシは、酒になんかするより、生で食べたほうがおいしいが、マタタビは酒にした方がおもしろい。

 今、飲んでいるのは南会津、只見川水系・蒲生川でイワナ釣りをしたとき、林道はたで摘んだものである。
 意気ごんで出かけたわりには、あまり釣れず、しょぼんとして帰る道すがら、すずなりのマタタビを見つけたのだった。