山グワ酒

 桑畑のクワと、渓流に沿った林道わきに自生している山グワが同じ種類とは、とても思えません。
 養蚕のための剪定がされているかどうかは別としても、花も実も、栽培クワとくらべて、山グワの方が、はるかに貧弱です。

 でも、桑の実も、キイチゴなどと同じく、初夏の訪れを告げる木の実だと思います。
 山グワはとても小さいので、ドドメ(栽培桑の実)とちがって、ほおばるほど摘むのはたいへんでしょう。
 酒にするといっても、たかが知れています。

 この桑の実は、いつもの渓へ、イワナの写真を撮りに行ったときに摘んだもの。
 見た目はさほどではありませんが、近年、秩父の渓も、オーバーユースによる荒れを感じさせます。

 渓へ出かけたときに、目についたゴミを拾って帰るようになって以来、ビクがじゃまになってしまいました。
 私は、釣り人なのに、魚を食わなくなってしまいました。

 明日の渓のためには、ザックにいっぱいのゴミと、数枚のイワナの顔写真が撮れれば、とりあえず満足するべきでしょう。
 山クワを摘んだその日も、そうでした。

 1年たった山クワ酒は、ドドメ酒よりずっと色の薄い褐色の酒になりました。
 酸味と、甘みと、クワ独特の甘い香りが溶けています。

 酔いが回ると、またまた、渓のことやイワナのことが、想われます。