オトコヨウゾメ酒

 オトコヨウゾメは、秋の雑木林で、赤い実をつけるガマズミの仲間。
 ミヤマウグイスカグラなどと同様、林床にひょろひょろと生える頼りない木だ。

 ガマズミの実を口に入れると、甘酸っぱくてなかなかいけるが、オトコヨウゾメはだめ。
 おいしくないのである。

 ガマズミがひとつの花房に丸い実をたくさんつけるのに対し、オトコヨウゾメは二つくらいずつ俵型の実をぶら下げる。
 だから、見分けも簡単。

 去年(1997年)の秋は、10月になってからちっとも雨が降らなかった。
 そのため、晩秋の定番きのこであるムラサキシメジが、いつものシロにまったく出なかった。
 そのとき、少しがっかりした私の前に、オトコヨウゾメが赤い実を鈴なりにつけていたのだ。

 丹念に摘んで、一合ほどの焼酎に漬け込み、先ほど少し味見をしてみた。

 まだ若いリキュールなので、色は美しいアメジスト。
 この色だけで、十分満足できる。

 切れはよくないが、酸味と野の香りが混ざったような感じ。
 まだ熟成が足りないが、決してまずくはない。
 ひょっとすると、大化けするかもしれないと思わせる味だ。

 ムラサキシメジは残念だったが、裏の雑木林に、裏切られたことは一度もないなあと、しみじみ思いつつ、グラスを傾けた。