ミネザクラ酒

 初夏の尾根で、淡いピンクの、やや控えめな感じの花をつけるのは、ミネザクラ。
 人の背丈ほどの木が、森林限界よりやや上あたりに、強風に耐えながら根を張っている。
 初夏に桜が見られるなんて、うれしい話だ。

 ミネザクラの実は、赤くなったかと思うと、黒くなって熟す。
 盛夏の山に行くと、黒っぽい実がついていることがある。

 なまで口に入れるとまずいが、ある日男体山でミネザクラを摘もうとしていたら、サルに睨まれた。
 やつらにとっては、貴重なフルーツなのだ。

 この実を少し摘んで、強壮ドリンクのビンに一本ほどの果実酒を作った。

 これは、今年の夏、北那須の流石山に登ったときに摘んだもの。

 音金からの登山道はほとんど廃道化していて、ひどいヤブに埋もれていた。
 そのヤブをこぎ抜け、ちゃんとした道に出ると、満開のシャクナゲの海と、すばらしいお花畑が待っていてくれたのだった。

 エキスが浸出し始めたころは、美しい真紅の酒だったが、早くも褪色し始め、紅褐色というような色あいになった。

 味は、予想したとおり、酸味と苦味・クマリン臭が強く、果実酒らしい冴えた味。
 ちっちゃなリキュールグラス三杯ぶんしかないが、十分満足できる味だった。