ナナカマド酒

 晩秋に深山の尾根すじに行くと、かならずたわわに実っている赤い実がナナカマドである。

 ナナカマドは紅葉も美しいし、実も美しい。
 どちらかといえば、秋の被写体として重宝されるのではないだろうか。
 さらにナナカマドの実は、クロマメノキなどとちがってたくさんかたまってついているので、採取がとても容易だ。

 ところが、ナナカマドはなかなかクセのある酒になる。
 はじめてナナカマド酒をつくったときは、会津朝日岳の尾根で摘んだ実を使ったのだった。

 とても豊かな山で、大量のブナハリタケ・ヤマブドウ・サルナシで行きよりザックを重くし、よたよたと下山しながら、ついでに摘んだナナカマドを漬けてみたのだが、ウメボシの種あじと酸味が混然となった、ちょっと妙な味の酒ができた。

 美味とはいいがたいので、それ以来ナナカマドには手を出さずにいたのだが、三年前に黒斑山で摘んだナナカマドの酒があったので、あけてみると、前回とはちがう印象を受けた。

 すなわち、コケモモやガマズミなど、典型的な美酒でなくとも、強い個性を主張するこの手の果実酒も、ちびりちびりとなめるぶんには、それなりに楽しめるのではないかという感じが今はする。

 果実の鮮烈な赤色が酒として結晶してくれないのは残念だが、秋の澄み切った空気を思い出させてくれるような淡い琥珀色の、澄んだ酒になってくれた。