イカリソウ酒
イカリソウ酒

 早春の里山歩きは楽しい。高山植物とちがって、里山の花は路傍の花。なつかしい花。生活につながる季節の花だ。
 イカリソウは明るい雑木林の林床に咲く、繊細で、美しい花だ。大平洋側の丘陵にはむらさき色から白花までのバリエーションのあるイカリソウが咲く。

 かつて住んでいた家の裏山には雑木林があって、モミジイチゴ、ウグイスカグラの実や秋のキノコ狩りのフィールドになっていた。

 そのとある一角に、イカリソウの大きな群落があった。やわらかい若葉は薬効がないとされているので、葉を摘みに行くとすれば、花がとっくに終わり、春も盛りを過ぎたころになるので、そろそろヤブ蚊対策も必要だ。

 以前は、毎年、イカリソウを摘みに行った。イカリソウの酒は草いきれの味がする。おいしいとはいいがたいが、なんだか体には効きそうな感じがする。

 裏山はリゾート法の指定をうけ、雑木林が無残に伐り倒されて、かつてヤブ蚊の楽園だったところは、コテージ(何語ですか?これは)と有料駐車場になってしまった。
 それ以来、もうイカリソウを摘みには行けない。たぶんいまは、「関係者以外立入禁止」の立て札が立っているだろう。一帯を開発した「西○鉄道株式会社」の関係者ではないから、私はそこには入れない。

 イカリソウ酒は、漬けた年あたりはその花に似てつんとした香りが鼻を突くが、年を追うごとに味はまるくなる。
 数年前に漬けた、最後のイカリソウ酒をなめながら、山はいったい、だれのもの? と自問自答する。