木村知『病気は社会が引き起こす』

 2020年3月4日現在、新型ウィルスによるインフルエンザの流行が始まっており、一昨日からほぼ全国の小中高校が一斉休校に入った。

 この本が書かれたのは新型ウィルスによる肺炎患者が発生する前だが、現在の状況に対しても有効な指摘が多い。

 以前から思っていたことだが、インフルエンザ(風邪)を治療する薬はないはずだ。
 いわゆる風邪の諸症状とは、免疫反応そのものなのだから、症状を抑えることは免疫機能を低下させることでもある。(喉の痛みを緩和するのは免疫機能と関係ないかも)
 町医者がそれを理解していないはずはないのだが、何も言わずに熱冷ましや抗生物質の注射をしてくれる医師がいる。

 著者は医師だが、風邪の治療法は唯一、休むことだと明言してくれている。
 市販の風邪薬とは諸症状を緩和するものなので、風邪の治療とは関係がなく、抗生物質がウィルスには効かないことも記されている。
 街の医師には、これらをきちんと説明してほしいものである。

 著者が言いたいもう一つは、貧困の問題が生活環境の貧困につながり、生活環境の貧困が病気を招き、ひいてはそれが医療保険の国費負担増加につながっているという点である。

 「日本」社会の病根のひとつは、休むことを罪悪視する社会のあり方にある。
 これは、「日本」の多くの労働者が罹患している一種の心の病である。
 自分もまた、この病の患者であるが、症状を自覚しているだけ、軽症だといえる。
 同業者の中には、栄養ドリンクの類で身体を覚醒させ、自分を追い込んでいる人も多い。

 経営側は、人は追い込まれることによってパフォーマンスを上げうると信じているらしいが、きちんと調査してみれば、そのようなやり方に妥当性がないことは、すぐにはっきりするだろう。

 さらに、現在の政府が「自助努力」の名のもとに、保険医療給付や福祉関係予算をなるべく切り詰めようとしている問題にも言及されている。
 社会保障関係予算を切って浮かせたお金を何に使おうとしているのかという問題はさておき、そのようなやり方が列島民の健康にどのような影響をもたらすのかといえば、病人の増加と医療費増であり、すべての問題を悪化させることにしかつながらない。

 この「国」の現在のやり方は、問題をきちんと受け止めるのでなく、問題を先送りして深刻化させることに汲々としているかに見える。
 元気なころには、そうならぬよう自ら心がけたいと思ったものだが、加齢によりそれもまた、難しいという現実に直面している。

(ISBN978-4-04-082307-2 C0236 \840E 2019,12 角川新書 2020,3,4 読了)