志垣民郎『内閣調査室秘録』

 内閣調査室(現・内閣情報調査室)の発足当初からその中枢で動いてきた人による回顧録と資料。

 ご本人がまとめたものでなく、別の人が編集している。

 『官邸ポリス』は、首相官邸周辺で国家秩序を維持・強化のために暗躍する一群の人々を描いたが、内閣調査室はその枢要な一画を担う公的な部署である。

 本書の相当部分は、著者があまたの財界人・学者・マスコミ関係者などと会食・宴席を共にしたり、資金提供した記録である。
 その目的は、学者・マスコミに政権寄りの言説をさせ、あるいは反政権的言説を控えさせることだった。
 このことによって、冷戦という現状認識に基づいて、共産党や左派的著述家を抑え込み、政権寄りの世論形成に資するのが、究極の目的だった。

 一読した限り、内閣調査室が違法な行為を画策したような事実は書かれていない。
 基本的には、マスコミ・知識人を通じた世論誘導が内調の任務だったらしく、謀略機関というより、裏・扇動機関とでもいうべき活動を行っていたようだ。

 とはいえ、特定の政権のために多額の公費を、おおやけにはできない使途に費消していたのだから、公的な部署としてあるべき姿ではない。

 おそらく現在、こうした調査・調略活動を行っているのは、『官邸ポリス』にあるように、さらに大規模なチームだろう。
 該チームは、振り分けられている予算だけでなく、領収書のいらない内閣機密費なども縦横に使われているだろう。
 このような情報機関が暗躍しない国は存在しないだろうが、じつに不愉快なことである。

(ISBN978-4-16-661226-0 C0295 \1200E 2019,7 文春新書 2020,2,28 読了)