水木しげる『水木しげるの古代出雲』

 オオクニヌシによる国譲りの真相に迫ろうとした漫画。

 『古事記』『日本書紀』には日本列島の国作りを行ったオオクニヌシが天孫族に国を譲る場面が描かれる。
 国譲りが円滑に行われたわけでなかったことは、記紀の記述によっても容易に想像できる。
 著者はその点を非常に気にされている。

 著者の想念は、オオクニヌシとスクナビコナによって、列島の骨格と支配の枠組みが作られたというところから出発する。
 これは記紀にも記されていることではあるが、記紀の記述は基本的に、列島の形成は天孫族によるという筋書きがベースになっている。

 著者は、出雲を本拠地とするオオクニヌシ一族と天孫族という異なる民族が、列島において何らかの形で邂逅し、摩擦を生じ、最終的に天孫族が勝利して列島の支配権を手に入れたと想定しているようである。
 天孫族が列島を作ったとする記紀の筋書きの中で、オオクニヌシ一族の存在は異質でかつ、天孫族にとって不都合な事実である。
 記紀の編纂を思い立った天武を始め、大和政権の官僚たちにとってオオクニヌシ一族は歴史から抹殺したい存在だったはずだが、それを存在しなかったとできないほど、彼らは大きな存在だったのだろう。

 天孫族のヤマト侵攻にあたっては、土蜘蛛やナガスネヒコなどの抵抗勢力も存在した。
 天孫族の勇敢さ・果敢さを記録するためには、抵抗勢力の存在もないものとはできなかったのである。

 オオクニヌシ一族は列島の支配勢力の一つだったのであり、彼らと天孫族の争闘は、支配権をめぐる戦いだった。
 土蜘蛛・ナガスネヒコは、被支配者だった可能性もあり、天孫族によるヤマト侵攻自体に対する抵抗も激しかったと想像できる。

 著者は本書で、天孫族との戦いに敗れたオオクニヌシの無念を描いているが、土蜘蛛たちの無念にまでは想到されていないようだ。
 できればご存命のうちに、それを描いていただきたかった。

(ISBN978-4-04-103007-3 C0179 \720E 2015,6 角川文庫 2020,2,28 読了)

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