響堂雪乃『放射能が降る都市で反逆もせず眠り続けるのか』

 「日本」人の忘却の早さには、恐れ入る。

 いや、忘れてはいないのだが、何を覚えているかといえば、過去の惨事は覚えているものの、それが現在も進行中だということなど、今や誰も覚えていない。

 事故を起こした原発は現在も、崩壊熱を発生させており、核物質を拡散させ続けている。
 原発はいつまでも冷却させなければならず、膨大な汚染水が、今後も発生し続ける。

 東京電力と国及び御用学者は、原発事故は津波が原因であり、地震が原因ではないとする結論を作り上げた。
 地震によって原発が壊れた可能性を認めれば、列島に原発を設置できる場所がなくなるからである。

 津波による全電源停止の可能性については、国会でも明確に指摘されていたにもかかわらず、「想定外」だったと言い抜けた。
 民主党政権は最も責任のある自民党政権に代わって、事故は「想定外」だったと強弁し続け、国民が納得したか否かはともかく、公的見解としては、「想定外だったんだから仕方ない」と結論づけた。

 何も終息していないのに、原発事故の終息を根拠なく宣言してみせたのも民主党政権で、それを受けて、核物質が日々拡散されているのに、コントロールできているという世迷い言を世界に向けて宣言したのは、自民党政権だった。

 今や、放射能から避難した人々に対する支援は打ち切られ、事故原発周辺への子どもたちを含む強制帰住が始まった。 
 福島県内でがん患者が激増しても、それは有意な数字でないと言い逃れ、原発周辺は、放射能汚染による健康被害の人体実験区域と化している。

 アンダーコントロールなのは、メディアであり、国民の意識である。
 本書はそれをきびしく衝いている。

(ISBN978-4-907872-17-5 C0036 1700E 2017,9 白馬社 2020,2,14 読了)

月別 アーカイブ