アレックス・カー『ニッポン景観論』

 列島の景観の貴重さを訴える本。
 景観に関する本なので、写真が多用されていて、じつにわかりやすい。

 論旨としては、ナチュラルでシンプルな景観が人の心を癒やすのであって、人工的でゴタゴタした景観はその逆であるということに尽きる。
 もっとも、人工的でゴタゴタしている方が安らぐという人が増えている可能性もある。

 じつは、山の中にも一般登山道には至るところに各種看板が建てられている。
 禁猟区の看板があるのはやむを得ないが、ここは水源林であるという看板や、防獣ネットは鹿対策であると記した看板などのほうが多い。
 なんのためにつけられているのかわからないが、明瞭この上ない登山道によく、テープ類が巻かれている。

 これらは登山道の景観をひどく損ねている。
 山道の路傍の石仏に供えられた造花とかワンカップ酒なども見苦しく、進行に対する冒涜と思える。

 駅では、エスカレータではスマホを見るなというエンドレス放送が終日、流れている。

 それが普通なのだという人間が多くなると、じつに息苦しくなるだろう。

(ISBN978-4-08-720753-8 C0226 \1200E 2014,9 集英社新書 2020,2,3 読了)