非常に長い小説で、作者が亡くなったことにより、収拾がつかない状態で終わっている。
これをどのように完成させようとしていたのか、ちょっと想像できないが、巻を進めるにしたがって登場人物も増える。
それぞれ、それなりのキャラクターではあるのだが、彼らのすべてが作中に不可欠なのかどうかも、定かでない。
後半あたりはいったい誰が主人公なのかさえ、わからなくなる。
偉そうな物言いで恐縮だが、未完に終わったことによって、作品としては破綻してしまったと言わざるを得ない。
作品の冒頭付近から登場するのは、殺人鬼の机竜之助、泥棒の八兵衛、聡明な娘のお松らである。
少なくとも最初のあたりは、机竜之助が主人公のようにみえる。
竜之助のニヒリズムを云々する論評を見るが、彼の人物像もはっきりしていると思えない。
「人を斬りたい」という竜之助の抑えがたい欲求とはなんだったのか。
琵琶湖でお雪ちゃんの首を絞めたのを最後に、その後の竜之助は、殺人欲さえ失っているようだ。
お銀様の独立王国も、駒井能登守のユートピアも、リアリティがない。
新選組が登場することでむしろ、作品に史実の枠がかかってしまったようにもみえる。
そんな中で、登場人物たちが演じる歌や語り物など、諸芸能の豊富さは楽しく感じられる。
作品が書かれ始めた大正時代は、舞台となった幕末からまだ50年もたっていない。
この時代にはまだ、江戸時代の空気が濃厚に残っていたのだろう。