司馬遼太郎『功名が辻』(1-4)

 山内一豊と千代の伝記小説。

 『翔ぶが如く』や『坂の上の雲』と比べてコミカルな筆致で、作者が楽しみながら書いている印象がある。
 さほど多くないと思われる史料によりながらも、戦国大名の出世のあり方を歴史的に描いている。

 この描かれ方では、千代が一豊を尻に敷いているかのような書き方で、史実とは思えないが、そのようなデフォルメはむしろ、戦国大名の家族のあり方として、不当ではなさそうだ。

 司馬氏の歴史小説は、史料をしっかり押さえて書かれていると感じる。
 もちろん、創作上の登場人物も多く出てくるが、彼らは史料から決してはみ出さない。

 もう一つの特徴は、小説に名もなき庶民が決して登場しない点だろう。
 これらが書かれた1960年代から1970年代にかけては、民衆史はまだ成熟途上だった。

 司馬氏の対極と言えるのは、白土三平氏の作品群だろうか。

(文春文庫 2019,3,20 読了)