網野善彦『異形の王権』

 中世における異形の人々に関する史論集。

 平安時代から鎌倉時代にかけて、華美な衣服を着たり、髭をたくわえたり、蓬髪だったり、蓑笠を着し歩くなどの人々は、常ならぬ存在として畏怖されたという。

 絵画史料に登場する彼らは、確かに、萎縮することなくおおらかに人と交わり、生活している。

 異形な人々が歴史の表舞台で活躍し、その後彼らが賤視されるようになった画期が南北朝期であると、著者は述べる。
 この史論集のタイトルである「異形の王権」とは、天皇後醍醐のことである。

 後醍醐は、異類な人々、すなわち一般の武士・公家・僧とは異なる思想をもったり行動したりする人々を自らに近く取り込み、自分の野望である天皇親政を実現しようとした。
 彼自身が異形の天皇であり、異形な人々に囲まれた異類の天皇だった。

 自分の望む天皇親政を実現するために、後醍醐は、天皇の「聖」性をも破壊した。

 後醍醐が残した南北朝期とは、力と打算がむき出しになった時代であり、その後、異形の人々が賤視される時代が訪れる。
 なぜ「聖」が「賤」に転換しなければならなかったのかは、「日本」史の重要なテーマとなる。

(ISBN978-4-582-76010-1 C0321 \951E 1993,6 平凡社ライブラリー 2018,9,12 読了)