赤澤威編『ネアンデルタール人の正体』

 ネアンデルタール人の実像を探るシンポジウムの記録。

 2005年に『ネアンデルタールと現代人』を読んだ。
 その当時は、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の混血はないという認識だったが、今は、現生人類の遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が含まれているという説が有力らしい。(もっともまだ定説ではない)

 遺伝子問題がどうあれ、ネアンデルタール人が現生人類と酷似しつつもは別種であることは間違いなく、彼らの絶滅と現生人類の繁栄のドラマは興味深いテーマである。

 彼らの身体的な特徴については、ある程度の定説を見ていると思える。
 彼らは、現生人類同様に直立歩行し、頑健な肉体と現生人類同様に大きな脳を持ち、各種道具を使って大型動物をハンティングしていた。

 本書が興味深いのは、ネアンデルタール人の精神面のアプローチを試みている点である。

 脳量について言えば、絶対的な数値ではネアンデルタール人は現代人に匹敵するとはいえ、彼らは身体自体が大きいから、総体脳量は現生人類より明らかに少ない。
 また、知能・精神活動全体を制御する余剰大脳皮質面積も、現生人類より少ない。
 以上のことから、ネアンデルタール人の知的能力は、現生人類より低かったことが推察されるという。

 本書はさらに、人格の統合にかかわる「脳内操作系」や対人関係を制御する「脳間操作系」など人間の社会性に重要な役割を果たす前頭葉の比率もかなり少ないため、社会性や感情も現生人類より低かったのではないかと、述べている。

 本書を読むと、笑顔の少ない毎日を、生きることを自体を目的とするように淡々と過ごすネアンデルタール人のイメージが浮かんでくる。

(ISBN4-02-259869-7 C0345 \1400E 2005,2 朝日新聞社 2018,3,22 読了)