加古陽治『真実の「わだつみ」』

 木村久夫と彼が残した数々の短歌及び二通の遺書について考察した書。

 権威主義を嫌い、学問を愛した青年木村久夫は、陸軍兵士として勤務していたカーニコバル島で、住民虐殺に関わったとして裁判にかけられ、処刑された。
 彼が残した遺書は、彼の罪が無実だったことを物語って余りある。

 彼が無実にして刑死しなければならなかった原因は、駐留軍上層部による隠蔽工作にあった。
 司令官・参謀らが書いた筋書きに、部下たる木村も途中までは口裏を合わせないわけにはいかなかった。
 しかし結果的には、虐殺に直接責任があるわけでない木村らに死刑判決が出され、責任者の一人だった参謀は無罪となって帰国した。

 銃殺刑となった司令官は、自分たちのなした隠蔽工作によって参謀が生きながらえることができて「良いことをした」と感想を述べたというが、木村をはじめ、責任のなかった人々が処刑されることに対する感想は述べていない。
 生きて帰った参謀は、「(木村の遺族に対し)恨まれるいわれはないし、謝る必要もない」と語っている。
 これこそが、大日本帝国陸軍だった。

 彼の遺書には、処刑を前にした木村が、不条理極まるその現実をどのように受けとめたのかが記されているが、それを読む者にさえ、とても受け入れられるものではない。

 これらの事実は、伝えられねばならない。

(ISBN978-4-8083-0995-4 C0021 \900E 2014,8 東京新聞 2018,2,16 読了)